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『未完の「国鉄改革」―巨大組織の崩壊と再生』『国鉄改革の真実―「宮廷革命」と「啓蒙運動」』葛西 敬之 ☆4

国鉄をJR各社へ分割民営化した当事者による解説・回想。現状維持を志向する経営層に対して危機感を持った若手層が、政治やマスコミ・世論を巻き込んで鉄という超巨大な組織の分割民営化を達成するまでの軌跡が語られているのです。

 
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何かの本に『国鉄のJR各社への分割民営化は危機感を持った若手層が、非公式の極秘プロジェクトとして進めており、国鉄改革への世論の高まりを好機に公式化し、分割民営化を達成した』と書かれていたのが記憶に残っていて、その中心人物の一人である葛西さん(JR東海の元社長)が書いた本を発見したので読んでみたのです。国鉄の分割民営化は僕が物心つく前の出来事であり、”国が主導したんだろうなぁ”くらいの認識だったのですが、国鉄内部の若手層主導だったというのを聞いてとても衝撃を受けたのです。

未完の「国鉄改革」

この本では主に、慢性的な赤字体質や累積債務の雪ダルマ的増加など、国鉄改革に至るまでの道筋が描かれます。

大きな社会インフラを担う公的企業でありながら独立採算を求められるという国鉄自体が抱えていたジレンマや、複数の労働組合の力関係・労使の対立など、複雑なしがらみが背景にあったことが分かります。例えるなら、がんじがらめになったガリバーといったところでしょうか。(おそらく)国鉄関係者の誰もが国鉄は破綻しつつあることを知っていながら手をこまねいたいたことで、傷口が大きくなっていきました。特に数年しのげれば逃げ切れる経営層に現状維持を志向するバイアスが働いたと書かれています。確かに、鉄道輸送量の成長率など数字を少しいじれば業績が回復する事業計画がいくらでも作れますもんね。

そんな中、著者の葛西さんを中心とする危機感を持った”逃げ切りのできない”若手層が、分割民営化をシミュレートする秘密プロジェクトを立ち上げます。立ち上げに際しては、同様の危機感を持つ一部の役員の支援もあったそうです。この動きを察知した体制派(現経営陣を中心とする主流派)は国鉄維持を前提とした独自の再建案の作成や、改革派の人事異動で対抗しました。しかし、体制派の再建案がその場しのぎの弥縫策であることが明らかになり、政治やマスコミを巻き込んだことで、国鉄改革の方向に世論が傾きます。新しい国鉄総裁が着任し、分割民営化が総裁直轄のプロジェクトとなったことで国鉄改革が一気に進み、分割民営化が実現されたのです。

分割民営化後の課題などについても触れられていますが、下記の『国鉄改革の真実』においてより紙面を割いて記載されているので割愛します。

国鉄改革の真実

こちらの本でも、半分くらいは『未完の「国鉄改革」』に書かれている国鉄改革に至る道筋が書かれています(内容的には重複しています)が、分割民営化後の課題や鉄道事業のようなインフラビジネスの要諦により多くの紙面を割いています。

国鉄の分割の考え方・JR各社のミッションは、以下の通りでした(私見含む)。
  • クローズドな島である北海道・九州・四国は、JR北海道・JR九州・JR四国とし、クローズドな営業地域内での独立採算を目指す。
  • JR東海は圧倒的な収益力を持つ東海道新幹線を有することから、国鉄の債務をまとめて背負い返済する。
  • 東北・上越新幹線や首都圏の在来線を有するJR東日本は、分割民営化のモデルケースとして採算性を向上させ、早期の株式上場を目指す。
  • JR東日本と類似する経営基盤を持つJR西日本は、JR東日本と同様の方向性を目指す。
  • 旅客ではなく貨物輸送を主体とするJR貨物は、貨物輸送ビジネスでの独立採算を目指す。
このように母体は同じ国鉄ながら、分割されたJR各社のビジネス基盤やミッションは異なっていたのです。国鉄時代は財布は1つなので、東海道新幹線や山手線などの高収益路線で上げた収益を地方ローカル線などの赤字路線にまわせばよかったのですが、分割後は各社が自社の収益を追求するようになるので話が変わってきます。また、分割時に発生した各種の調整・妥協など、一筋縄ではいかない問題も残っていました。

その1つが”新幹線保有機構”と言うもので、JR東日本・東海・西日本の営業地域をまたがる新幹線については、新幹線保有機構で共同管理するというスキームです。このスキームができた背景は、モデルケースとすべきJR東日本や、JR東日本に比べて経営基盤がぜい弱なJR西日本に対して新幹線の収益を再分配するためなのです。要は、新幹線の収益を使ってJR東西を補助するための組織であり、分割民営化(各社独立採算)の理念に反するのです。他にも、東海道新幹線の品川駅建設をめぐるJR東海とJR東日本の綱引きなど、分社化したがゆえに発生した各社の利害対立が描かれています。

印象的だったのは、”公共性の高いインフラビジネスにおいては、短期とは20年・中長期とは50年~100年であり、大局観と長期的展望で方向性を決めた後は、右顧左眄せず一貫して初心を継続することが重要である”というインフラビジネス特有の考え方です。リニアは100年の計に相当するのだそうです。

2冊とも分厚く、かなり読みごたえがあります。ただ、超巨大組織を大改革するという途方もない取り組みであり、学ぶことが多いのです。MBAのケーススタディにもなっているみたいです(英語版はなさそうでした)。


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